中国映画 Battle of Memories (バトルオブメモリーズ)- 記憶を扱い興味深いが登場人物が錯綜

Battle of Memories

公開 2017年 監督 Leste Chen

この中国映画の観客は日本人の私、アメリカ人の連れ、それに7人の若い中国人グループだけだった。

ここ半年、映画館に足を運ぶことが多いのだが、私たちが選んだ映画は、チケットを前もって買っておかないと席が取れないものと、広い映画館に8、9人しかお客が入らないような映画と二極化していた。

前者はLa La LandやBeauty and Beastのようにメディアで騒がれたもの。それにStar Warsのようなシリーズものが多く、スクリーンから弾丸、ロケット、ロボットや怪獣が飛び出してくるか、血が降りかかってくるような、「手に汗系」と私が呼んでいる種類だった。「新しいものが出たから行ってみよう」という感じで、Star Wars Rogue Oneも観たが、劇場を出た途端に忘れてしまうのは寅さんシリーズと同じ。製作関係者はそういう「癖で映画館に出かける」人を織り込み済みだろう。芸術性がどうした、こうしたには関心を寄せないだろう。

CGの手を借りた本当にシューリアリスティックなアニメなども家の小さいテレビより、劇場の大型スクリーンで観ると印象が全く違うのだろうと思う。Moanaの光る波、「君の名は」で見た透明な水の流れなどの美しさはCGだからこそ可能だ。最近観た、Ghost of Shell(攻殻機動隊)などもCGのテクニックで人間ロボットの融合が自然で驚いた。1982年のBlade Runnerから長い道のりを来たものだ。

後者の映画館に観客8人は、人間関係を綴ったようなものばかりだった。シャーリー・マクレーンの The Last Word(遺言) 、三日前に観たリチャード・ギアの演技が光るNormanも日曜の夕方にもかかわらず3カップルと私たちだけが貸切のようにして観た。リチャード・ギアが「素敵ね〜」と言われるような役でなく、イスラエルと政治が絡み、また、魅力的な旬の女優が出ていない(ロマンスが無い)のも観客を集められない原因だったのかもしれない。よく考えたら、これらは家のテレビでNetflixでも良かったのかも、と思えた。劇場放映はそう長くはないだろう。

前置きが長くて、やっとこの中国映画に行き着いた。すみません。このBattle of Memoriesはクリストファー・ノーランのインセプションを彷彿とさせ、記憶を意図的に消したり、戻したり、そうしたら混乱が生じて、となかなか興味深いストーリーだった。カメラワークも良かった。ただ、登場人物が交錯して分かりづらく、最後に「aha !そういう事だったのか」がないまま不満が残った。私だけの問題だったのかもしれない。連れに回答を求めたが、同じように頭を掻いていた。私と連れのアメリカ人以外の全ての若い中国人は分かったのかもしれない。

実はこの映画の前に何本も中国映画のプレビューがあった。殆どが、つまらなそうなホームドラマ的なものばかりだった。明らかにオハイオ州コロンバス近辺に住む中国人を対象にプレビューを流していた。
「こんなにも観客のいない映画や、つまらなそうなホームドラマをよく放映できるなあ、中国人以外見ないでしょうに」と思って後で調べたら、アメリカ全体にネットワークを持つAMC という映画館は中国の大企業Dallian Wandaが保有していた。連れは去年同じ映画館で、中国映画を観客3人だけで観たそう。中国ソフト文化を浸透させるという太っ腹の意図があれば、例えお客が来ないとしても別に何とも思わないだろうと、妙に納得した。何しろ製作自体がWanda Mediaであった。

映画 The Last Word (ラストワード)- 観客は全部で6人

公開2017年 監督 Mark Pellington  脚本 Stuark Ross Fink

コロンバスのAMC映画館には私と連れを含めて観客が6人しかいなかった。

「こんな経験(がら空きの映画館)初めてだ」と言うと、連れは「去年、中国映画を同じ映画館で観た時には3人しかいなかった」と応えた。

シャーリー・マクレーンが裕福だが孤独な老女ハリエット役を演じている。お得意の口の達者な意地悪バアさん役。、家族を含めて誰も彼も彼女を嫌っている。

ジャック・ブラックと共演した「Bernie バーニー みんなが愛した殺人者」(2011年公開)の大富豪女性と同じよう役柄だ。シャーリー・マクレーンがコメディをやるとしたら、こういう設定意外に考えられないのか。

Bernieバーニーでは、愛を求める孤独な意地悪バアさんのまま殺されてしまったが、The Last Wordでは意地悪バアさんから愛嬌のあるバアさんに変わって、彼女と関わった人に愛されて死んでいく。

ハリエットは新聞社で死亡記事を書いている若い女性を雇って、通り一遍ではない死亡告知記事を自分が生きているうちに書いてもらおうとする。雇われた若いライターのアンも他の人のようにハリエットを嫌い、怒鳴りあったりもするのだが、彼女の過去を調査したりインタビューして、知れば知るほど本質的には素晴らしい人だと分かるようになる。

そのストーリーの運びはフラットと言えばそうだし、ありきたりとも言える。

「心臓病のその名前からすると、あんな元気でドライブしたり、DJしたり、新聞社に乗り込んで怒鳴ったりできんだろう。病気の設定をむしろ癌にした方が良かったかもしれない」
などと言わないで欲しい(連れのコメント)。こういうバアさんになって最後を迎えられたら良いなあ、と思いながら映画館を出るので十分ではないか。シャーリー・マクレーンなんだから、もう一工夫して欲しいなどと厳しい批評をしている人もいる。しかし、巷にはどうしようもない映画が沢山ある。それでも土曜の夕方の公開にたったの6人しか観客が集まらなかったのは、どう見ても宣伝費をケチったか、マーケティングのミスではないだろうか。

映画 Get Out (ゲットアウト)

公開 2017年 監督・脚本 Jordan Peele

往年の名画「招かれざる客」と「ステップフォードワイフ」をミックスして、血と笑いを降り掛けたような映画だ。手に汗系のホラーだが、人種差別のテーマも大きく横たわっている。しかし、スリリング、かつ笑えるストーリーの運びの中では、それを忘れてしまいそうになる。

主人公は都会に住む黒人のカメラマン、クリス。ガールフレンドは白人のローズ。彼を両親に合わせるために彼女が運転する車で家に向かう。クリスは両親に自分が黒人である事を知らせなくて良いのかと聞くが、彼女は「進歩的な両親にとって、そんな事は取るに足らない問題よ」と応えて相手にしない。父親は脳外科医で母親は精神医療をしている。1967年公開の「招かざる客」Guess Who ‘s Coming to Dinnerも同じテーマだが、この年までアメリカ南部諸州では人種を超えた結婚は合法ではなかった。その中でも頑迷なアラバマ州が異人種間の結婚を正式に合法化したのは何と2000年になってからだ。

もっとも、それ以前に結婚したい異人種カップルは他州で結婚すれば良いだけの話だったのだろう。アラバマに行ったことがないので何とも言えない。Get Out ゲットアウトの舞台は明らかにされていないが、南部であることに間違い無い。ドライブ途中でやりとりした警官の態度にもそれが現れている。

到着した二人を両親は愛想よく迎え、家の内外を案内する。壁に掛かる写真を指差して、父親はクリスに「これは私の父親で、オリンピックに出場した時のものだ。ヒットラーの前で黒人ランナーのジェシー・オーウェンに敗れた」と説明する。それは普通に聞いていたが、 親に仕えていた使用人を自分が放り出すわけにはいかないから、引き続き働いてもらっていると説明され、紹介された黒人のウォルターと家政婦の(ような)ジョージナには違和感を覚える。その後ローズの弟も到着して夕食を囲むが強暴性と攻撃性を露わにした彼に好感を持つことはできない。

翌日開かれたパーティーに来た客は白人の年寄りばかり。単に社交を楽しむために集まったとは思えない。その中には盲目のアートディーラーがクリスの写真家としての目を高く評価した。他には老齢の白人女性が若い黒人男性と腕を組んで現れるのだが、その青年はウォルターやジョージナのように不自然で、クリスの若い気さくな挨拶にも応じない。その話を友達(黒人)のTSA職員ロッドに電話で話すと、その青年の写真を撮るように言われる。ロッドに送るためにスマートフォンで写真を撮ろうとした時、意図せずにフラッシュをたいてしまうのだが、すると、それまで異様な穏やかさを見せていた彼は鼻血を流し、豹変して”Get Out!”(ここから出て行け!)とクリスに叫ぶ。

この後、一見普通に見えるが、それでいて薄気味悪いシーンが最後まで続く。手に汗を握りつつ終わりの10分で、そういうことだったのかとストーリー全体が繋がった。分かりの早い人はもっと前に予測できるだろう。TSA職員ロッドが笑いを誘い、クリスと観客を救い出してくれる。

この映画を観た後、偶然にも2月27日号のタイム誌を読んだ。リコンバレーのテック長者が 永遠の若さを保持させるために、「若い血」と年寄りの血を取り替えたり、認知がシャープになる「お薬」のビジネスを企てているというのだ。彼らのことだから、16〜25歳くらいの若い血を「売りたい人」「買いたい人」にネットオークションさせると言い出すことがあるかもしれなが、驚かない。それが、血だけでは済まなくなると、このGet Outの映画のようになるか。何しろ、ローズの父親は脳外科医で、母親は気持ち悪い催眠術を施したりするのだ。もちろんローズはただの可愛い女の子ではない。