「コーランを知っていますか」阿刀田高

atoda takashi「コーランを知っていますか」阿刀田高 2003年

出版社の新潮社はサイト上の宣伝で「コーランがすらすら頭に入る」本と言っている。すらすら頭に入るかは個人の頭の扉の問題だろうが、普通の言葉で普通の人に分かるような書き方なので、私の頭の中にも入っていくような気がする。しかし、宗教・神学用語を使ったアカデミックな解説や論議を求める人には物足りないかもしれない。

私を含めた普通の人が、

「地球の各地からイスラム国に集まる若者たちは何に惹かれてやって来るのだろう?」
「中近東諸国の長い間の紛争は部族闘争、資源紛争、それともコーランの解釈の違いからくるものなの?延々と続くマホメット(私たちが聞き慣れた呼び名)の後継者争い?」

などの疑問を持って、それらのとっかかりとして、概略で良いからイスラム教を知りたいと思った時に読むのに適している。実際に著者がサウジアラビアやシリアを旅した時の印象も織り込んだ10章からなるエッセーでもある。

第1話 扉を開けると …………コーランの紹介

第2話 象の年に生まれて ……マホメット(ムハンマド)のバイオ、レジュメ

第3話 アラーは駱駝を創った…マホメットが神から啓示を受けた時のこと。最後の審判、楽園についてなど

第4話 預言者たちが行く ……ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の中の神、預言者、使徒などについて解説。また、マホメットの布教活動(=営業活動)ポリシーなどについて

第5話 妻を娶らば ……………マホメットの女性関係。婚姻、離婚、日常生活の倫理と規制など

第6話 神は紙に描けない………イスラム教徒が信ずべき6つのこと

第7話 砂漠のフェミニズム……イスラムの女性問題

第8話 救世者の称号……………コーランの世界観とキリスト教の関係

第9話 君去りし後………………今日まで続くマホメットの後継者争い

第10話 聖典の故里を訪ねて

オープニングでコーランのエッセンスが紹介されている。もともと短く構成された7節8行の内容をしっかり理解できればコーランの本質が分かった事になると言う。超多忙な人はもうこの第1話だけで終わっても良いという話だろう。その本質だけでなく、成立過程というか、ユダヤ教、キリスト教との関係も説明してくれているので、これだけで十分と思う人もいるかもしれない。

<イスラム教徒が信ずるべきもの>

  • アラー …… 全世界の創造者で支配者。最後の審判の主催者。存在を感知して敬う神であり、描かれたり、偶像化されたりするものではない
  • 天使  …… アラーの意思を人間に伝える役目を担っている
  • 啓典  …… もちろんコーランだが、コーランはユダヤ教の聖典や聖書をひっくるめてバージョンアップしたもので、イスラム教はユダヤ教やキリスト教と対立するものではない(基本はそうであっても現実社会では対立)
  • 預言者 …… マホメットは預言者の真打ち。キリストやモーセは前座で神の教えが徹底しなかったので、神はマホメットを遣わせた
  • 来世の存在 …心正しい者は最後の審判でアラーに祝福され、未来永劫の幸福が保証される。
  • 天命  …… この世の全てはアラーによって定められている

<イスラム教徒の行うべきこと>

  • アラーが唯一の神と認識
  • 礼拝
  • 斎戒。飲食、性の営み、喫煙など
  • 喜捨
  • 巡礼

この世の不幸な出来事なんて些細なことで、すべてはアラーのお帳面に記載されて、正しいことをしたならば死後の世界は安泰、という信じることは何もイスラム教に限らないし、神にとっての正しいことが歪んで解釈されたことは今に始まったことではない。アラーを信じて、アラーのために戦死した場合には祝福されて、未来保証があると思えば聖戦に参加する若い信徒がいるとしても不思議ではない。何しろ、そうなることはアラーによって定められたものなのだ。

コーランもそうだが、宗教の書となると、預言者や使徒があちこちでスピーチしたことを注釈もなく誰かが記録したものなので、しつこく同じことが繰り返されたり、時には一貫性のない事象も出てくるが仕方がない。何しろ、大昔のことなのだ。

著者は小説家としてのスキルも駆使して、物語性の低いコーランを読めるものにしてくれている。また、歴史的エピソードの説明も面白い。