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本「ダークマネー」ジェーン・メイヤー

Dark Money by Jane Mayer, 2016年

dark money

雑誌ニューヨーカーのスタッフライターのジェーン・メイヤーは、アメリ政界にお金をばらまいて裏で政治家を操っているコーク兄弟について調べ上げて、約450ページにまとめた。

裏表紙には兄弟が関係した基金、財団が寄付した金額と寄付先の表が書かれている。表紙からはみ出しそうな数である。見てみると、聞いたこともない、何をやっているのかも分からないOhio 2.0に66万5千ドル、Arioch Project に32万2千ドル、明らかに右寄りのTea Partyと関係しているだろうと思えるState Tea Party Expressに60万ドルを寄付している。その他諸々、2009年から2013年に至る連邦政府に提出された書類から拾い上げてきたものだ。

団体だけではなく、大学もリストされている。14万ドルがGrove City College、14万3千ドルがHillsdale Collegeに。金額からすると教授一人の年間のサラリーがやっとくらいの額だ。あちこち、ちょびちょびとアカデミアにばら撒いているのが分かる。スケールの大きな寄付先としては、ヴァージニア州のGeorge Mason Universityが選ばれている。約29億ドル。お金持ちが自分のお金を寄付するのだから、人に批判されることはないだろうと思える。が、しかし、これらの寄付は「学校が好きにお金を使っていいよ」ではなく、コーク兄弟の思想が広まるようにプログラムされているらしい。教授による政治政策の授業から、パンフレットの配布まで、規模と内容とで寄付額が決まるのは想像がつく。

その彼らの広めたい思想とは何か?

財産所有者の権利を守り、市場経済に委ねた、政府の規制や税金なしの自由経済社会を理想とするリバタリアン社会だ。福祉や地球温暖化などは彼らにしてみればありえない話なのである。その自由市場経済社会を実現するために教育の中に思想を組み込んだり、政治家にお金を出している。票は買うことはできるという前提だろう。 時々愚かな発言をした前のテキサス知事について、なぜ、このような人が知事に選ばれて、しかも、大統領選に二度も出たのかが、この本によって想像できた。前知事は彼らの使いっ走りになるつもりだったのだろう。同じように超保守の途中で大統領選を降りたテキサスの上院も然り。直接それが本の中で述べられているわけではないが、政治献金のこと、共和党のブレーンのカールローブなど、テキサス政治に関係していた人を思い出すと、そう考えられた。

彼らの父親は反共主義で、それを小さい時から彼らの頭に植え付けた。民主党の方針は彼らにとっては共産主義も等しく、潰さなくてはならないものだった。

では、そういう父親とは一体、どのような人だったのか。裕福な彼らの家庭と生い立ちはどうだったのか、影響を及ぼしたのはどのような人たちか、などをパート1で説明している。その後に献金ネーットワークや金額、それに関わる政治家や運動家について延々と述べられるが、正直それに辟易した。最後に、どんなにお金を使ったところで、彼らの目標だった、「オバマ大統領の再選を阻止する」ことは結局できなかった、と読者は溜飲を下げて本を閉じるのではないだろうか。

Denializm by Michael Specter

20160729_134630~2Denialism by Michael Specter 2009

MMR – Measles (はしか)、Mumps (おたふく風邪)、Rubella (風疹) の混合ワクチンは自閉症とは関係ないし、ワクチンは効果的だ

地球温暖化は起きている

有機農産物ばかりが地球に優しい、体に優しい食べ物とは決して言えない

バイオエンジニア達が遺伝子操作による難病治癒の研究をしている

等々を例に挙げて、社会に影響を及ぼすような事象を科学的に理解しようとしない人がいて困ったものだ、と延々と説明している。そうした人々は、答えは初めから分かっているし、聞きたくないものは聞かないという態度で耳を傾け話し合うことを拒否する。

自分の体験、身近な人の逸話などの方が、そうしたエライ人の研究調査より、(感情的に)ぴったり来る。答えが曖昧ではなく、善悪、白黒がついて分かりやく、自分の好きなものには例えデマゴーグであっても付いて行ってしまう。殊に、子供や健康に関するものであれば尚更だ。

ページを大きく割いているのがイギリス人の医者Andrew Wakefieldが1998年に「ワクチンが自閉症を引き起こす」と医学ジャーナルに発表して社会的大問題に発展したケースである。

我が子をその危険にさらしたくない親たちが、子供のワクチン接種を拒否して逆に伝染病が裕福な地域で起きたりした。後に、その研究を発表した医療ジャーナルLancetが間違いを発表して、英国がWakefieldの免許を剥奪しても、未だにそれを信じる人が後を絶たない。

私は前にテキサス州のオースティンに住んでいたのが、その同じ人Andrew Wakefieldがオースティンで一番裕福な人が集まる居住区に住んでいるとテレビのインタビュー番組で知った。道徳的に許せない研究をしたと言え、その人を慕い、その人の言うことを聞いて財政的サポートをするがいるわけで、それには驚いたし、嫌な気分がした。原因の分からない症状を持つ子供を持つ親が藁にもすがりたい気持ちはわかるが、似非宗教リーダーに身を預けようとするのは間違っているのではないか。

また、拒絶者グループの中には薬品会社の利益至上主義を政府が助長している、と陰謀説を唱える人もいる。

一つ一つの話題が、そうだよな、でも自分も含めて科学的でない人の気持ちも分かると揺らぐのが現代人ではないだろうか。

日々の暮らしの中で高度な専門分野の教育を受けなければ会話にも参加できないような問題が増えている。そういう時に自分にとって部が悪かったりした場合にもクールな頭で、人類にとって、社会にとって良い答えを出そうとする人間がどのくらいいるだろうか。この本は、そのあたりの疑問と答えは出してくれない。実はそれを期待して読んだのだけれど。

相手の考え、言い分を聞かずに頭ごなしに否定する態度は大統領選挙が行われる2016年現在、アメリカ社会に蔓延している。困ったどころではなく、危険とも言える。2008年に大統領選後に、マッケーン上院議員が素晴らしい「敗者の演説」をしたけれども、今回はどのようになるだろうか。