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映画 Arrival

墨を吐くイカとコミュニケートしろと言われても普通の人は困惑するが。

Arrival

公開2016年11月

監督 Denis Villeneuve 脚本 Eric Heisserer

謎の飛行物体が地球上の各地に現れた。普通のSF映画だと、それが画面に映し出されると同時にCGの光線が交錯したり、未来兵器が次々に人間をなぎ倒したりするのだが、この心的SF映画は初めから終わりまで静かだ。訳の分からないものはやっつけるに限るという、アクション満載の映画を期待して観に行くとがっかりする。

飛行物体と言っても巨大な細長の石というか、「千と千尋の神隠し」に出てくるカオナシが巨大になって、お面を外してヌボーッと空中に留まっているような感じだ。危害を与えようとしている者(モノ)たちか、そうではないのか。一体、何を目的としてこの地に現れたのか。

到着と同時に地球人を襲うことはなく、何かメッセージを持ってきているような気配もする。一国だけの問題ではなく、対処方法を間違えば世界戦争が起きる可能性もある。そこで米軍の幹部は言葉の専門家である言語学者のルイーズ・バンクス(エイミー・アダムス)を密かに連れ出し、

「この奇妙な相手が一体何をしに来たのか聞き出してくれ」

と頼むというか、命令する。彼らは他国、ことに中国の出方を気にしている。彼女のそばには物理学者のイアン(ジェレミー・レナー)が付く事になった。ハハ〜ン、ロマンスの相手ね、と一瞬のうちにわかるのだが、このロマンスは通常のロマンス以上の意味がある。

彼女が、イアンや他の関係者(男ばっかり)と浮遊物体の中に入って行くと、そこにいたのはイカの足みたいなものだった。

私たちが水族館に行って、たこやイカのような巨大軟体物を見ていたとしよう。中の巨大イカが私たちの方にやってきて水槽の壁面に吸盤を吸い付けても誰も挨拶をしているとは思わず、また、墨を吐き出して

「あなたを好きです」

とメッセージを送ってくれたとしても、人間の方は、

「珍しいところが見られたわ、ラッキー」

と言いながら去ってしまい、振られたイカは水槽の片隅で泣くだけだ。ルイーズの場合は、この墨のパターンを言語或いはパターン化した言語的意味を持った記号として理解し、コミューニケートする必要があった。

印象的シーンは、彼女が初めて異生物に会う時に隔離された壁面越しとは言え、 人間に接するように身につけていたマスクとオレンジ色の防護服を脱いだことだ。私はこのような顔をしたもので、「名前をルイーズと言います」と自分を見せるのだ。鳥かごに入った小鳥を連れて行くのは、有毒ガスの探知を目的としているのだろうが、彼女は格別それを気に留めているようすもない。

二人(二匹)の異人と何度も会ううちに次第にイカスミ記号パターンの種類は増えていくのだが、何を意味するのかさっぱり分からない。意味を解こうとする合間合間にルイーズの「亡くなった娘」との会話が思い出されて記号解読のヒントを与えてくれたりする。しかし、筋の運びの中で分かりづらい。英語をきっちり理解できないからかと思ったが、過去に結婚して(娘との会話に離婚という言葉が出てくる)、娘ができて、その子が亡くなり、今は異人の言葉・記号を解読しようとしていて、折良く新たな恋人候補のイアンが現れたと年表を書いて物語を理解しようとすると、私のように間違う。

ルイーズは異星人とのコミュニケーションを通じて未来に起こることが分かるという自分を発見した。そして、そのような普通ではない能力が問題の解決に導く。

他人より先に未来が覗け、その答えや結果が分かれば便利で最強と思えるが、ありがたいことに普通の人にはそれができない。だからこそ、悲しいこと、気に入らないことも抱えたまま変わらない日々を繰り返し送れるようになっている。

映画 The Help

 

The Help 2011

The Help 2011

公開2011年 監督・脚本 Tate Taylor

公開されてから5年も関心を持たずにいたのが悔やまれた。

 

 

 

 

 

ブルシット! Bullshit!

ブルシット! Bullshit!

映画やアメリカ人の会話の中にしばしば現れるshitに興味を持って聞き取り調査を始めたのが2年前の2014年。表現の数々を集め、イラストを加えて「ブルシット!Bullshiti!」という本に仕上げた。今まで観た映画の中から

bullshit

When shit hit the fan

Nobody gives a shit

やその他、代表的なshit表現の出てくる映画を本で取り上げたのだが、もしThe Helpを観ていたら確実にリストに加えた。なぜなら

“Eat my shit.”「私のクソを喰らえ」

という短かい命令文が、物語全体の要のように使われているからだ。

黒人メイドのミニーは、人種差別を当然とし権力を振るう若い白人女性ヒリーに対して、ダビデがゴリアテに放った石のようにこの言葉を発した。

背景

舞台は1963年のミシシッピ州のジャクソン。アメリカが大きく変わろうとしていた時期だ。

ワシントンD.C.でマーチン・ルーサー・キング牧師による大行進があり、公民権運動が大きなうねりとなっていた。ケネディー大統領がCivil Rights(公民権)を議会で演説し、人種隔離の撤廃や公民権制定を求めていた。当然のことだが、ミシシッピを含む南部諸州はそれに反対した。そして、その年63年にケネディー大統領はダラスで暗殺され、法制定の任を引き継いだジョンソン大統領が翌年、公民権法に署名をした。

ミニーの友達で同じ黒人メイドのエイビリーンの家にはケネディー大統領、キング牧師、それに息子の写真がかかっている。

あらすじ

白人で裕福な家柄の出であるスキーターはOle Miss (University of Mississippi ミシシッピ大学)を出たばかり。ジャーナリストを志望していた。自分を育ててくれた黒人メイドの行方を母親に聞くがはっきりした答えは得られない。一方、彼女はジャクソンに住む友人たちの黒人メイドへの理不尽な扱いに腹を立てていた。そして、本物のジャーナリストになるためにも、メイドの目を通して人種差別の実態を暴いた本を書くことにした。スクーターに説得されたエイベリーンとミニーは、不承不承ながら体験を語る役目を引き受けるが、次第にプロジェクトに積極的に加わって、他の黒人メイドも引き込んで行った。

メイドからの十分な証言、いなくなったメイドの母からの証言を取り本の完成が近づいたものの、出版されると、ジャクソンの誰が話題になっているのかが分かってしまい、身の危険がある。そこでミニーが「保険策」の提案をした。

町の社交界の仲間を牛耳っているヒリーは メイドに家族と同じ屋内のトイレを使わせない運動を展開していた。ある日、ミニーは嵐の真っ只中、メイド用の外のトイレを使うことを拒否してヒリーに解雇された。後日、料理上手な彼女はミニーにチョコレートパイを作って陳謝の意を表するために出かけた。ヒリーは散々嫌味を言ったが、喜んで2切れも食べた。

そのパイの中に何が入っていたのか…

そして、それがなぜ保険策なのか…

人種を超えた女性同士の友情、信頼、また、親子の情などで物語が構成されており、温かい気持ちで観終えることができる。

その他

アアパルトヘイトのような人種差別が法的にアメリカで禁止されてからたったの50年しか経っていない。法で有色人種の人権が守られるようになったのは東京オリンピックの年だ。人種問題は危ういバランスの上に立っている。

Mississippi Burning

Mississippi Burning

 

この年、白人の公民権運動家がミシシッピ州で殺されているが、それを題材にしたMississippi Burningは手に汗握る系のサスペンス劇である。それが下地にあったために、The Helpを避けていたのかもしれない。