Author Archives: Hirame

映画 Get Out (ゲットアウト)

公開 2017年 監督・脚本 Jordan Peele

往年の名画「招かれざる客」と「ステップフォードワイフ」をミックスして、血と笑いを降り掛けたような映画だ。手に汗系のホラーだが、人種差別のテーマも大きく横たわっている。しかし、スリリング、かつ笑えるストーリーの運びの中では、それを忘れてしまいそうになる。

主人公は都会に住む黒人のカメラマン、クリス。ガールフレンドは白人のローズ。彼を両親に合わせるために彼女が運転する車で家に向かう。クリスは両親に自分が黒人である事を知らせなくて良いのかと聞くが、彼女は「進歩的な両親にとって、そんな事は取るに足らない問題よ」と応えて相手にしない。父親は脳外科医で母親は精神医療をしている。1967年公開の「招かざる客」Guess Who ‘s Coming to Dinnerも同じテーマだが、この年までアメリカ南部諸州では人種を超えた結婚は合法ではなかった。その中でも頑迷なアラバマ州が異人種間の結婚を正式に合法化したのは何と2000年になってからだ。

もっとも、それ以前に結婚したい異人種カップルは他州で結婚すれば良いだけの話だったのだろう。アラバマに行ったことがないので何とも言えない。Get Out ゲットアウトの舞台は明らかにされていないが、南部であることに間違い無い。ドライブ途中でやりとりした警官の態度にもそれが現れている。

到着した二人を両親は愛想よく迎え、家の内外を案内する。壁に掛かる写真を指差して、父親はクリスに「これは私の父親で、オリンピックに出場した時のものだ。ヒットラーの前で黒人ランナーのジェシー・オーウェンに敗れた」と説明する。それは普通に聞いていたが、 親に仕えていた使用人を自分が放り出すわけにはいかないから、引き続き働いてもらっていると説明され、紹介された黒人のウォルターと家政婦の(ような)ジョージナには違和感を覚える。その後ローズの弟も到着して夕食を囲むが強暴性と攻撃性を露わにした彼に好感を持つことはできない。

翌日開かれたパーティーに来た客は白人の年寄りばかり。単に社交を楽しむために集まったとは思えない。その中には盲目のアートディーラーがクリスの写真家としての目を高く評価した。他には老齢の白人女性が若い黒人男性と腕を組んで現れるのだが、その青年はウォルターやジョージナのように不自然で、クリスの若い気さくな挨拶にも応じない。その話を友達(黒人)のTSA職員ロッドに電話で話すと、その青年の写真を撮るように言われる。ロッドに送るためにスマートフォンで写真を撮ろうとした時、意図せずにフラッシュをたいてしまうのだが、すると、それまで異様な穏やかさを見せていた彼は鼻血を流し、豹変して”Get Out!”(ここから出て行け!)とクリスに叫ぶ。

この後、一見普通に見えるが、それでいて薄気味悪いシーンが最後まで続く。手に汗を握りつつ終わりの10分で、そういうことだったのかとストーリー全体が繋がった。分かりの早い人はもっと前に予測できるだろう。TSA職員ロッドが笑いを誘い、クリスと観客を救い出してくれる。

この映画を観た後、偶然にも2月27日号のタイム誌を読んだ。リコンバレーのテック長者が 永遠の若さを保持させるために、「若い血」と年寄りの血を取り替えたり、認知がシャープになる「お薬」のビジネスを企てているというのだ。彼らのことだから、16〜25歳くらいの若い血を「売りたい人」「買いたい人」にネットオークションさせると言い出すことがあるかもしれなが、驚かない。それが、血だけでは済まなくなると、このGet Outの映画のようになるか。何しろ、ローズの父親は脳外科医で、母親は気持ち悪い催眠術を施したりするのだ。もちろんローズはただの可愛い女の子ではない。

 

映画 Lion ライオン〜25年目のただいま

公開 2016年  監督 Garth Davis 脚本 Luke Davies

A Long Way Homeという題の本がLion という映画になった。日本では「ライオン 〜25年目のただいま」という、パンくんやジェームズも出てきそうな、動物愛情物語のような題になってしまった。

これは虐待された仔ライオンが保護されて育てられ野生に戻されたが、ある日ガラガラと戸を開けて懐かしい人間家族を訪ねてきた映画ではない。むしろ、原題の「長い帰り道」「母をたずねて三千里」的な実話なのである。ライオンというのは母親が名付けた名前Sheruがヒンディー語でライオンを意味するからだが、本人にはSarooと聞こえていたと言う。

インドの小さな町に住む貧しい家族。優しい母親と頼もしい兄、それに妹と暮らす5歳の男の子サルー。母親は石を運ぶのが仕事だ。父親はいない。兄と二人で貨物列車から石炭を盗んだり「お仕事」をして母親を助けている。ある早朝、兄について「お仕事の手伝い」に家を出てきたものの、眠くて起きていられずに駅のベンチで寝ているように言われる、絶対どこにも行くなと念を押されて。しかし、起きた時に兄を探しに停車中の汽車に乗ると、その汽車が動き出してしまう。

これは親の悪夢だ。小さな子供は「ここで待っていなさい」と言われても、それができない。見当たらずに大慌てで探すと大泣きして立っている我が子を発見して安堵するのだが、サルーの場合は家から遠く離れたカルカッタまで来てしまった。路上で暮らし、人さらいから逃げ、収容所のような施設に入れられた後、オーストラリアの夫婦に養子として引き取られる。何の苦労もなく育ち、養父母の愛情に包まれて育ったものの、インドの家族を忘れることはなく、自分を待っているだろうとの思いから家路を探し出す。家を出てから25年が過ぎていた。

アカデミー賞に幾つもノミネートされた心が温まる映画だが、インターネットで見られるSaroo Brieleyのインタビューも興味深い。実在の母親は富からは離れた暮らしをしていたにもかかわらず美しい。帰り道を探すのに使われたGoogle Earthの関係者がどんなに喜んだか想像に難くない。

 

映画 Hidden Figures と Moonlight – アフリカンアメリカンの闘いを描いた映画を2本。

Hidden Figures

公開2016年 監督 Theodore Melfi 脚本 Allison Schroeder他

Hidden Figuresは観終えてからも高揚感が持続する映画だ。終わった時には劇場内で拍手をしている人が大勢いた。私も拍手をした。3人の黒人女性がいかに理数系の才能を武器として自分たちのキャリア、人生を切り開いて行ったか、その過程をたどったものだ。

60年代、ソ連と有人宇宙飛行を競り合っていた当時、コンピューターはなく、人力で全てを計算しなければならなかった。子供の頃から数学に抜きん出ていたキャサリン・ジョンソンはNASAという圧倒的な男性社会に飛び込んで性差別、人種差別にもめげずに、ジョン・グレン飛行士が乗るロケットの打ち上げから無事地球に戻す計算をやりぬく。この中には職場と離れた黒人専用トイレを行き来するエピソードが含まれていた。そういう時代背景であった。

メアリーはエンジニアリングの学位を取りたいのだが、黒人であるためにすんなりとは進まず、裁判官の許可を得て高校の夜間部からスタートした。

仲間のもう一人、リーダー的なドロシーは黒人女生の計算士たちを束ねているもののマネージャーへのプロモーションは拒絶されてしまう。しかし、めげずにコンピューターランゲージを自分で勉強し、他の女性たちにも教えてNASAにIBMのメインフレームがインストールされた時には、密かにオペレートもしてみたような人だ。

3人ともが差別社会を相手に闘った。大きな相手は国家ともいうべきシステムであった。公民権が認められたこともあったと思うが、立ちはだかるハードルや壁を個人の能力と聡明さ、それに粘り強さで超えて行った。黒人コミュニティーばかりでなく、誰もが見習えるモデルだ。

Moonlight

公開 2016年 監督・脚本 Barry Jenkins

一方、Moonlightの時代背景は既に人種差別は撤廃されている現代である。登場人物は舞台がマイアミということもあるが、ほとんどが黒人とキューバー人だ。

映画製作に関わった大方が黒人であった異例の映画らしい。

チビと呼ばれた主人公シャロンの闘いを少年期、青春期、成人期の3部で構成している。闘いの第一は自分である。そして周りにいる大方の人間。学校に行けば年中いじめられ、母親には怒鳴られてばかりで、自分の存在をどう捉えて良いか分からない。

父親のように優しくシャロンに接してくれたホアンは麻薬売人。ある日、自分のお客と一緒に車に乗っていたのがシャロンの母親である事を知って愕然とするが、売人であっても良心はあるという事なのだろう。母親は長い事麻薬を断ち切る事ができずにいる。その中で、青春期に唯一心を許せたケビンとは友情以上の関係を持った。彼とは連絡が途絶えていたのだが、レストランで働いている彼と再会して、彼に抱かれて安らぎを感じるのだった。

貧困、麻薬、暴力、育児放棄、孤独に加えて性的アイデンティティの揺らぎが加わると観る方も体力、気力ともに消耗する。映画祭や批評家の喝采を浴びて2017年のアカデミー賞のベストピクチャーに選ばれて、私も「観なくちゃいけない映画」のように、義務的に観たが、はっきり言って、そんなに評価されるべき映画なのだろうかという疑問が残った。必死に生きる個人的な心的格闘を静かに少年期から青年期まで緻密に追って紡いだ個人的映画と説明できる。

芸術的気分に浸りたい場合には良いかもしれない。

両方の映画にMahershala AliとJanelle Monaeが出ているのだが、麻薬売人の役でAli はアカデミー賞のベストサポート賞を得た。できればHidden Figuresの誠実な人柄の軍人役でベストサポート賞を授けて欲しかった。同等の演技力だったと思う。