Category Archives: Movie Reviews

映画 The Last Word (ラストワード)- 観客は全部で6人

公開2017年 監督 Mark Pellington  脚本 Stuark Ross Fink

コロンバスのAMC映画館には私と連れを含めて観客が6人しかいなかった。

「こんな経験(がら空きの映画館)初めてだ」と言うと、連れは「去年、中国映画を同じ映画館で観た時には3人しかいなかった」と応えた。

シャーリー・マクレーンが裕福だが孤独な老女ハリエット役を演じている。お得意の口の達者な意地悪バアさん役。、家族を含めて誰も彼も彼女を嫌っている。

ジャック・ブラックと共演した「Bernie バーニー みんなが愛した殺人者」(2011年公開)の大富豪女性と同じよう役柄だ。シャーリー・マクレーンがコメディをやるとしたら、こういう設定意外に考えられないのか。

Bernieバーニーでは、愛を求める孤独な意地悪バアさんのまま殺されてしまったが、The Last Wordでは意地悪バアさんから愛嬌のあるバアさんに変わって、彼女と関わった人に愛されて死んでいく。

ハリエットは新聞社で死亡記事を書いている若い女性を雇って、通り一遍ではない死亡告知記事を自分が生きているうちに書いてもらおうとする。雇われた若いライターのアンも他の人のようにハリエットを嫌い、怒鳴りあったりもするのだが、彼女の過去を調査したりインタビューして、知れば知るほど本質的には素晴らしい人だと分かるようになる。

そのストーリーの運びはフラットと言えばそうだし、ありきたりとも言える。

「心臓病のその名前からすると、あんな元気でドライブしたり、DJしたり、新聞社に乗り込んで怒鳴ったりできんだろう。病気の設定をむしろ癌にした方が良かったかもしれない」
などと言わないで欲しい(連れのコメント)。こういうバアさんになって最後を迎えられたら良いなあ、と思いながら映画館を出るので十分ではないか。シャーリー・マクレーンなんだから、もう一工夫して欲しいなどと厳しい批評をしている人もいる。しかし、巷にはどうしようもない映画が沢山ある。それでも土曜の夕方の公開にたったの6人しか観客が集まらなかったのは、どう見ても宣伝費をケチったか、マーケティングのミスではないだろうか。

映画 Get Out (ゲットアウト)

公開 2017年 監督・脚本 Jordan Peele

往年の名画「招かれざる客」と「ステップフォードワイフ」をミックスして、血と笑いを降り掛けたような映画だ。手に汗系のホラーだが、人種差別のテーマも大きく横たわっている。しかし、スリリング、かつ笑えるストーリーの運びの中では、それを忘れてしまいそうになる。

主人公は都会に住む黒人のカメラマン、クリス。ガールフレンドは白人のローズ。彼を両親に合わせるために彼女が運転する車で家に向かう。クリスは両親に自分が黒人である事を知らせなくて良いのかと聞くが、彼女は「進歩的な両親にとって、そんな事は取るに足らない問題よ」と応えて相手にしない。父親は脳外科医で母親は精神医療をしている。1967年公開の「招かざる客」Guess Who ‘s Coming to Dinnerも同じテーマだが、この年までアメリカ南部諸州では人種を超えた結婚は合法ではなかった。その中でも頑迷なアラバマ州が異人種間の結婚を正式に合法化したのは何と2000年になってからだ。

もっとも、それ以前に結婚したい異人種カップルは他州で結婚すれば良いだけの話だったのだろう。アラバマに行ったことがないので何とも言えない。Get Out ゲットアウトの舞台は明らかにされていないが、南部であることに間違い無い。ドライブ途中でやりとりした警官の態度にもそれが現れている。

到着した二人を両親は愛想よく迎え、家の内外を案内する。壁に掛かる写真を指差して、父親はクリスに「これは私の父親で、オリンピックに出場した時のものだ。ヒットラーの前で黒人ランナーのジェシー・オーウェンに敗れた」と説明する。それは普通に聞いていたが、 親に仕えていた使用人を自分が放り出すわけにはいかないから、引き続き働いてもらっていると説明され、紹介された黒人のウォルターと家政婦の(ような)ジョージナには違和感を覚える。その後ローズの弟も到着して夕食を囲むが強暴性と攻撃性を露わにした彼に好感を持つことはできない。

翌日開かれたパーティーに来た客は白人の年寄りばかり。単に社交を楽しむために集まったとは思えない。その中には盲目のアートディーラーがクリスの写真家としての目を高く評価した。他には老齢の白人女性が若い黒人男性と腕を組んで現れるのだが、その青年はウォルターやジョージナのように不自然で、クリスの若い気さくな挨拶にも応じない。その話を友達(黒人)のTSA職員ロッドに電話で話すと、その青年の写真を撮るように言われる。ロッドに送るためにスマートフォンで写真を撮ろうとした時、意図せずにフラッシュをたいてしまうのだが、すると、それまで異様な穏やかさを見せていた彼は鼻血を流し、豹変して”Get Out!”(ここから出て行け!)とクリスに叫ぶ。

この後、一見普通に見えるが、それでいて薄気味悪いシーンが最後まで続く。手に汗を握りつつ終わりの10分で、そういうことだったのかとストーリー全体が繋がった。分かりの早い人はもっと前に予測できるだろう。TSA職員ロッドが笑いを誘い、クリスと観客を救い出してくれる。

この映画を観た後、偶然にも2月27日号のタイム誌を読んだ。リコンバレーのテック長者が 永遠の若さを保持させるために、「若い血」と年寄りの血を取り替えたり、認知がシャープになる「お薬」のビジネスを企てているというのだ。彼らのことだから、16〜25歳くらいの若い血を「売りたい人」「買いたい人」にネットオークションさせると言い出すことがあるかもしれなが、驚かない。それが、血だけでは済まなくなると、このGet Outの映画のようになるか。何しろ、ローズの父親は脳外科医で、母親は気持ち悪い催眠術を施したりするのだ。もちろんローズはただの可愛い女の子ではない。

 

映画 Lion ライオン〜25年目のただいま

公開 2016年  監督 Garth Davis 脚本 Luke Davies

A Long Way Homeという題の本がLion という映画になった。日本では「ライオン 〜25年目のただいま」という、パンくんやジェームズも出てきそうな、動物愛情物語のような題になってしまった。

これは虐待された仔ライオンが保護されて育てられ野生に戻されたが、ある日ガラガラと戸を開けて懐かしい人間家族を訪ねてきた映画ではない。むしろ、原題の「長い帰り道」「母をたずねて三千里」的な実話なのである。ライオンというのは母親が名付けた名前Sheruがヒンディー語でライオンを意味するからだが、本人にはSarooと聞こえていたと言う。

インドの小さな町に住む貧しい家族。優しい母親と頼もしい兄、それに妹と暮らす5歳の男の子サルー。母親は石を運ぶのが仕事だ。父親はいない。兄と二人で貨物列車から石炭を盗んだり「お仕事」をして母親を助けている。ある早朝、兄について「お仕事の手伝い」に家を出てきたものの、眠くて起きていられずに駅のベンチで寝ているように言われる、絶対どこにも行くなと念を押されて。しかし、起きた時に兄を探しに停車中の汽車に乗ると、その汽車が動き出してしまう。

これは親の悪夢だ。小さな子供は「ここで待っていなさい」と言われても、それができない。見当たらずに大慌てで探すと大泣きして立っている我が子を発見して安堵するのだが、サルーの場合は家から遠く離れたカルカッタまで来てしまった。路上で暮らし、人さらいから逃げ、収容所のような施設に入れられた後、オーストラリアの夫婦に養子として引き取られる。何の苦労もなく育ち、養父母の愛情に包まれて育ったものの、インドの家族を忘れることはなく、自分を待っているだろうとの思いから家路を探し出す。家を出てから25年が過ぎていた。

アカデミー賞に幾つもノミネートされた心が温まる映画だが、インターネットで見られるSaroo Brieleyのインタビューも興味深い。実在の母親は富からは離れた暮らしをしていたにもかかわらず美しい。帰り道を探すのに使われたGoogle Earthの関係者がどんなに喜んだか想像に難くない。